▼倖田來未を聴きながら「BUT」を連発する
[2007年04月02日(月) ]

 

 どんなにおいしいものや、大好物でも毎日食べていればあきてくる。なかなか食べられなくて待ち焦がれるからこそ、その「渇望感」が食べた時の気持ち良さにつながり、食べられたことに素直に感謝しようという気持ちにもなる。

 倖田來未は才能とセンスを持ち合わせているシンガーだと思う。傾向の相当ちがう楽曲をそつなく歌いこなせる。ダンサブルなものからバラードまで、ロックから歌謡曲調まで、いかんなく表現力を発揮している。そしてまだまだ成長していける可能性を秘めている。

 「BUT」考え込んでしまうことがある。ファンでないと、彼女のヒット曲を全部発売順に正確に思い出せないのだ。彼女が2005年・2006年にどれくらいの CD をリリースしたかご存知だろうか。

 まずシングルは、2005年が「hands」から「Shake It Up」まで9枚、2006年が「Lies」から「Cherry Girl/運命」まで12枚、計21枚で、この間2005年12月7日から2006年2月22日まで、12週連続シングル発売というすごいことをやっている。EXILEとのコラボレーション「WON'T BE LONG」を入れると+1枚。

 アルバムは、2005年に「secret」「BEST〜first things〜」、2006年に「BEST〜first things〜」「Black Cherry」と計4枚。DVD も各年1枚。そして2007年には現在のところ、シングル、アルバム、DVD を各1枚発売している。

 これだけの作品、とくにシングル22曲のタイトルとメロディを即座に思い出すのは、熱心なファンでなければ至難の業だ。ファンの中にも、発売されたすべてのアイテムを集めようとしてかなり無理をしている人もいることだろう。

 ひとつひとつの曲のクォリティが決して低いわけではない。SOULHEAD や石井竜也が参加したり、本人が作詞したり、たくさんの作家が多彩でステキな曲を書いたりしている。

 ただ、毎週のように新たなシングルが発売される中で、結局ベストでまとめて聴けばいいやという気分になってしまうかもしれないし、1曲1曲のインパクトはどうしても薄くならざるを得ない。これはとても残念なことだ。

 確かに売れている。とりわけアルバムはベスト2枚は200万枚に迫りつつあり、「Black Cherry」もまもなくミリオンセラーとなる。

 「BUT」後に振り返った時に、「代表曲」がありすぎて決められない感じを持つ。というのは、今後もこの勢いでリリースを続けていけば、持ち歌は相当な数にふくれあがることになるからだ。

 最近発売のシングルも4枚連続で、1曲+カップリングというよくある形ではなく、2〜4曲をメインにしているから、一定期間ある曲になじんで記憶にしっかりとどめる時間がどうしても足りない。

 これは果たして彼女にとっていいことなのだろうか。大阪のラジオで彼女は、12週連続シングルを発売した後それをすぐにベストアルバムにして出すことは初め知らなかった、と発言している。彼女も微妙に自分の売り方に対して、違和感を覚えているようだ。

 「エロカッコいい」も作られたイメージであるような気がするし、日本デビュー前に米国でダンスミュージックを出して注目されたこと(=初心)も忘れられている。

 もっとゆっくりと、じっくりとアーティストを育てていけないものか。こんな売り方に対する反発も少なくない中、才能が活かされきらない結果になったら哀しい。

 シングル「BUT」のあの抜群のリズムセンスがもっともっと磨かれていって、大歌手になってほしいと切に願う。

  《 06年11月9日CDの売り方を考える