本気で愛し、リスペクトする人が不在、マイケル追悼番組
[THE BIG ISSUE 2009年8月1日 124号]

 

 6月26日のメディアは、マイケル・ジャクソンさん一色だった。日本時間でその日の午前中にマイケルさんが急死したからだ。その中でもフジテレビ系は、「緊急特別番組! マイケル・ジャクソンはなぜ死んだのか!? 世界が震えた衝撃の全真相」を午後7時から約2時間にわたって放送した。

 私は内容より前に、スタッフたちの大変さを想像してしまった。たぶん特番決定から放送まで、10時間もなかったはずだ。ニュース映像やライブ映像の準備、出演者のブッキングなど、どれをとってもきっちり構成できる時間ではない、と断言できる。倒れた人もいるかもしれない。そんなに急ぐ必要があったのだろうか。

 看板にも偽りがある。この特番放送時点では、ロサンゼルス郡検視局の司法解剖結果も発表されておらず、全真相が明らかになるはずもない。推測に次ぐ推測と、わかっていることのくり返しで、消化不良感だけを残して番組は終わった。

 さらに出演者も、デイプ・スペクターはそこそこの解説をしていたけれど、ゲストコメンテイターが眞鍋かをりとウエンツ瑛士という、マイケルさんの全盛期をほとんど知らない世代。ふたりは真摯に懸命にコメントしていたけれども、やはり「感想」の域を出ず痛々しささえ感じた。これはふたりの責任ではない。急に出演依頼できる人がいなかったのだろうけれど、やはりマイケルさんをきっちり語れる人物なしでは話が深まらない。

 内容も浅い。死因をクールに分析するコーナーを最初と最後において、真ん中は、マイケルさんの軌跡。すばらしい活躍をしたけれど、後半生はスキャンダルまみれ……という定番的なとらえ方をほとんど出ない。「孤独だったのでは……」など、発展させたらおもしろくなりそうなコメントも、司会の小倉智昭や曲アナたちが、最初から活かしていく気がなく、あまりに淡々と番組は進行していく。

 父親がどうしてジャクソン兄弟をスーパースターにしていったのか、その中で兄弟・親子の絆にさえひびがはいるショウビジネス界とは何なのか、そして「人間」としてマイケルさんは、何を求め何を考えて生きていて、本当に幸せだったのか、そんな視点はまったく語られない。もしもひとりでも、本気でマイケルさんをリスペクトし、愛している人が登場できたら、番組はがらりと変わったはずだ。ここまで急いで不十分な特番を作ってしまうのは、視聴率稼ぎと思われてもしかたない。マイケルさんの冥福を心から祈る番組づくりなど期待してはいけないのだろうか。

 

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