不気味な「理由なき」北野誠氏の降板
[THE BIG ISSUE 2009年6月1日 120号]

 

 大阪を中心に抜群の人気があるタレント北野誠さんが、4月13日に所属するプロダクション、松竹芸能から無期限の謹慎処分を受け(関係役員・社員も懲戒処分)、テレビとラジオのレギュラー番組5本を次々と降板した。その前にも、彼がパーソナリティをつとめる深夜ラジオ番組『誠のサイキック青年団』(大阪・ABCラジオ)が、3月8日の放送で突然理由も告げずに打ちきりになっていたし、彼のブログも3月末で告知なく閉鎖されていた。

 この「事件」が不可解なのは、処分や降板の理由がまったくといっていいほど明らかにされていないことだ。松竹芸能は『誠のサイキック青年団』等で誤解を与える不適切な発言をしたからだ、としか発表しておらず、具体的な内容は一切述べられていない。本人も、各番組の最終出演回で謝罪をし、激励に感謝しているが、降板の理由については一言もふれていないという。

 ファンだけでなく、それぞれの番組を視聴していた人たちは、これで納得するだろうか。政治家には「説明責任」を求める報道をくり返している各局が、この事態を説明できないのはなぜなのだろうか。問題が北野さんの発言にあることだけは間違いないので、私たちは「メディアで言ってはいけないこと」の基準を全然知らされないことになる。これは簡単に、メディアに登場する人間が、自分の発言を自主規制することにつながる。週刊誌やネットメディアは、問題発言を特定することだけにやっきになっているが、これはもっと大きな問題であることを深く追及するのが道理なのではないか。

 というのも、松竹芸能と朝日放送(ABC)が、業界団体である日本音楽事業者協会からの抗議(北野さんに対する)を受け退会するまでになっているからだ。その「抗議」の内容も公開されていない。ひょっとしたら、時の強者の言いなりになり続けている放送業界・芸能界全体の構造にかかわる問題なのかもしれない(実際北野さんは、業界で大きな力を持つあるプロダクションを批判した)。

 もともと北野さんは、何回か問題発言をして「謝罪」してきた。その中には確かに人を傷つけるものもあったけれども、強い力を持ったものでも容赦なくスパッと斬る語り口が人気の秘密だったこともまた確実だ。そんな彼に「ご迷惑をおかけしました」と抽象的な謝罪だけを強いる処分はきわめて不気味だ。こんな形で「口封じ」がされていくとしたら、いつの間にか、メディアから覇気も自由もまた失われてしまうのではないか。

 

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