「CHANGE」をまったく活かせないテレビ
 [THE BIG ISSUE 2008年9月1日号]

 

 朝倉啓太・内閣総理大臣は、内閣関連の会議で誰も出されたお茶を飲まないことに着目し、お茶の全面廃止を求める。ところが官僚たちも大臣たちもこぞって反対。「長く続いている習慣には意味がある」なんて言い出し、強硬に抵抗する。朝倉首相は、みずから水筒を持参して、「飲みたい人だけ持ってくればいい、なかなか便利だ」と説得して回る。結果的に税金が60万円節約された。

 これは木村拓哉主演(朝倉役)の「月9」ドラマ「CHANGE」(フジテレビ系)のワンシーンである。そんな簡単に官僚や大臣を説得できるわけがない……でもこんな理想の総理がいたらいい……なんて原稿を書く気はない。やってみようと思う総理大臣がいないだけなのではないか。実は政治は変えられるのではないか。

 そう私が思えただけで、この珍しい政治をメインテーマにすえたドラマは成功だったと思う。できるだけ「現場」へ飛んでいって、国民のナマの声を聞く。秘書官が持ってくる書類に目を通さずにハンコを押したりせず、全部をきちんと読み、おかしいと思ったところは調べさせる。そうしたことをやって当たり前だし不可能ではないのに、権力争いに終始しているのが永田町の「お作法」であることをドラマは見事に描き出していた。朝倉首相を利用して権力の座に付こうとした黒幕政治家の野望がさりげなく砕かれるのも小気味よかった。

 最終回、朝倉首相はテレビのナマ中継で国民に20数分間訴える。委員会の議論は意見の言いっ放しで、決して議論を深めて一致点を見出そうというものではないことに驚いたなど「政治の素人」だった自分(陰謀で首相に仕立て上げられたが、仕事を始めてから「覚醒」する)の、政治に対する「素朴な疑問」を率直に語る。そして、小学校の教科書を使って「国民主権」を説明し、解散総選挙で責任を持って「国民を第一に考える」議員に投票してくれ、と結ぶ。この間画面も実際にワンカット、CM もカメラの動きもなし、という画期的な演出だった。

 しかしこのドラマに関する話題の中心は、木村拓哉主演なのに視聴率が伸び悩んだことばかりだった。せっかくの政治を考えるチャンスをマスメディアは見事なまでに放棄した。朝倉首相と福田首相の比較や、永田町への「素朴な疑問」の分析などをマジでやってみたらどんなにおもしろい番組ができたことか。それは結局このドラマを観ている人たちに「あんな首相がいたらいいな」から先へ進まなくていい、と言い放っているようなものだ。もったいない!

 

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