テレビは誰の方を向いているのか
[THE BIG ISSUE 2008年8月1日号]

 

 いま着実に知名度を上げているシンガー・ソングライターに大野靖之がいる。母親を乳がんで亡くした実体験などに基づく温かい人間関係を求める歌詞や「夢」を持ち続ける大事さを訴えるメッセージがファンの気持ちをつかんでいる。

 彼はあるきっかけから、小学校から専門学校まで、学校で「授業」としてライブをする活動を長く続けており、この6月ついに300校目の「学校ライブ」を行った。その様子が、6月20日にテレビ朝日系「ワイド!スクランブル」で放送されることになった。

 しかし前日になって急きょ放送延期。放送日は未定のままだ。みんなに知らせてしまったファンたちは、あわてて連絡を取り、彼のブログのコメントにはがっかりしたファンたちの気持ちがたくさんつづられている。

 またこの4月、私は日本テレビ系「人生が変わる1分間の深イイ話」の制作会社から取材を受けた。NHK の名作人形劇『ひょっこりひょうたん島』にまつわるエピソードが取り上げられるはずだった。制作会社の担当者も『ひょうたん島』の映像を1分間流すために関係者の間を奔走して、やっとのことで放送にこぎ着けた。

 しかしこれも、放送予定日5月12日の前日に「番組編成の都合上」カットされてしまい、結局そのままボツになってしまった。

 こんな話は、ワイドショーやバラエティでは日常茶飯のことで、大事件が起きたり、ディレクターの気分が変わったり、「もっとおもしろくしろ(視聴率を稼げ)」という上からの指示があったりで、苦労して作り上げた「小品」は軽くぶっ飛んでしまう。

 実は「小品」であるがゆえに放送する価値があり、きらりと光る内容を持っていたりすることが多いのだが、いちばん初めにカットされる対象になってしまう。取材を受けて放送を楽しみにしていた人たちの心情など全くおかまいなしだ。

 その延長線上に、NHK教育テレビのドキュメンタリー番組「ETV2001」をめぐる最高裁の判決もある。取材に協力した市民団体が主張していた「期待権」(取材されたものを正確にまた取材者の希望を尊重して編集する)は認められなかった。

 もちろんテレビ局側に基本的な編集権がなければ権力の介入をたやすく受けてしまうだろう。だが背景には、テレビ局が、一般市民を取材してほとんどお礼もせず、さらに勝手に編集して不正確に放送し、あるいは全く放送しない……とやりたい放題なのに国会議員の注文はすぐ受け入れる、という矛盾があり、放置されたままだ。テレビが誰の方を向いているか、が問われているのに。

 

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