個人のテレビ視聴がチェックされる時代が近い
[THE BIG ISSUE 2008年5月1日号]

 

 2011年7月をもって、テレビの電波がアナログからデジタルに変わる(地上波デジタル放送、いわゆる「地デジ」)。しかし、もう3年後だというのに、専用のアンテナやチューナーやカードがないとテレビが見られなくなることを知っている人は、私の周囲で増えてはいるものの、対応策は先延ばしにしているし(私も)、まだ知らない人もたくさんいる。それに対して、宣伝が足りない、という論調は見るようになってきた。しかしデジタル移行に関する問題点は余りに指摘されていない。

 まず費用である。いろいろ工夫しても、10万円近くの資金が必要になる。それを国民全体に負担させることについて誰も異議を唱えないのはなぜなのか。それともこれこそが景気回復の奥の手なのだろうか。実際、今あるテレビを買い替えなくてもチューナーで見られるのに、「地デジ」対応機種にしないと見られないような宣伝がされ、「地デジ」対応機種以外の生産はほぼ中止されている。

 次に、デジタル電波は暗号化されて送られるので、それを解読して画像にするために、ユーザー登録をして、B-CAS(ビーキャス)カードを買わなければならない。これはビーキャスという会社がすべてを仕切ることになっている。視聴者のテレビ試聴歴も簡単に保存できるという。テレビを見る人の情報がひとつの会社に集まれば、個人情報が悪用される可能性も強くなる。

 タバコを自販機で買う時に taspo(タスポ)なるカードが導入されたが、その目的である「未成年者の喫煙防止」の効果は疑わしいし、総費用が800億円以上かかるという。だとすると、カードによる喫煙者管理こそが目的だから資金を投じるのか、とかんぐりたくもなる。日常生活が監視され始めている流れがある。

 ビーキャスはさらにメディアの取材をほとんど断わっているようで、問い合わせ用のカスタマーセンターはあっても、直接電話できる番号がまったく公開されていない。これではますます怪しい。

 このままでは2011年7月に、テレビを見られなくなる人が続出しそうだ。その時点で修正を余儀なくされるだろうし、視聴率が大事なテレビ業界も手を打ってくるだろう。だがその前に、テレビの重大問題であればこそ、今からしっかりメリットだけではなく問題点も指摘していくのがテレビの役割ではないのか。それができないとしたら、やはり怪しい。

 

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