走りたい?「アナウンサー」たち
[THE BIG ISSUE 2008年4月1日号]

 

 2月17日に行われた「東京マラソン」は、参加するのも大変なイベントだ。フルマラソン・一般の部の申込者は130062人、うち当選者が27500人だから、倍率は4.7倍に達する。それだけ走りたい人がいるのだ。

 共催団体の日本テレビは、7時間半にわたってナマ中継し、20%を超える高視聴率を稼いだ。だが有力選手がゴールした後の中継の後半は、参加した11人の局アナ(8人が女子)やタレントばかりを追い、ほとんど自局の宣伝かと思わせるような内容だった。

 この局アナたちは、4.7倍の抽選をくぐり抜けて自主的に走ったのだろうか? ノーである。アナウンス部部長のひとことで決まったそうだから「本大会が推薦する国内・国外の競技者」枠(「東京マラソン」公式サイトより)で出場したとしか考えられない。

 さまざまな疑念がわく。日ごろ車に独占されている公道を走れる、という快感を求めて必死で抽選に賭けた一般の人たちを締め出すことになるのを、日本テレビは共催者としてどう考えているのか。ひとりでも多くの人に走ってほしいという配慮はありえないのか。

 それに、走ったアナウンサーの一部はレポーターも兼ねていて、84歳の大会参加者中最高齢走者のフォローをした1人は、報告を優先して途中でリタイアしている。ならば、アナウンサー本来の仕事である「報告」だけに徹した方がよくはなかったのか。この大会は「市民マラソン」をうたっているのに、「市民」の登場は局アナに比べてきわめて少なかった。

 局アナ側から見たらどうだろう。完走したアナ全員が制限時間内だったことで感動しあっていたし、その経験がこれからの仕事に役立たないとは言わないけれど、マラソンを走ることが「アナウンサー」の本来的な「業務」なのだろうか? 走りたくなかったアナもいたのではないか。

 今や、アナウンサーはテレビ局の「顔」として、タレントにもならなければならない風潮が強まっている。バラエティに出て罰ゲームもこなし、こうしたイベントでは局の広告塔になり、時にはドラマで演技をし、歌まで歌わねばならない。人気が出てタレントになってしまうアナもいる。

 これは、テレビがどんなことでもバラエティにしてしまっていることの一側面だ。アナウンサーが、ニュースや状況レポートを、真剣に正確に分かりやすく語る任務を思い出した時、テレビは変わるかもしれない……無理かな。

 

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