「罰ゲーム文化」をもたらしたテレビ
[THE BIG ISSUE 2007年11月1日号]

 

 7月3日、神戸市の私立高校3年生が、学校で飛び降り自殺した。同級生から金品を要求されたことが原因の第一に上げられているが、そこには現代文化の闇がひそんでいる(判明は9月17日)。

 自殺した男子生徒は、ある同好会のメンバーだったが、その同好会内では「罰ゲーム」がはやっていたという。その生徒の知り合いは「罰ゲームで陰毛をそられ、そのときに写真を撮られた」という彼の話を聞いている。その結果、昨年立ち上げられた同好会の情報交換サイトに、その下半身裸の写真が掲載され、彼の遺書にも、無理やり撮られた、自分で載せたのではない、という意味のことが書かれていたという。

 さらに昨年冬ごろ、彼の髪型が「ソフトモヒカン」に変わったことに対しても、彼はその知り合いに「罰ゲーム、罰ゲーム」と苦笑いしていたという。自殺の直接的動機とされる金品の要求にしても、かなり長期にわたって「うそをついたら罰として1人あたり1万円を払う」という「ゲーム」に強制的に参加させられていた結果によるものらしい。

 今私が描いた流れはすべてメディアの報道に基づくものなので、自殺というとても複雑な行動のすべてをとらえていないかもしれない。しかし、ひとつだけ言えることがある。彼に対するいじめは明らかに「罰ゲーム」として行われ続けたということだ。

 入学当初からいじめが始まる中で、ゲームをやると負けて「罰ゲーム」を受けてばかりになる彼は、周囲の「遊び道具」として格好のものになってしまったのだろう。事実、いじめに関与していた生徒のひとりは「遊びだった」と語っている。学校側も「遊び」に近い認識でいた可能性もあり、事件判明後いじめと認めるまで5日かかっている。「罰ゲーム」の問題性は誰も認識していないようだ。

 今や、こうした学生サークルから、クラス・職場など行動を共にする集団には、余興としての「罰ゲーム」が付きものになってしまった。「文化」として定着したと言ってもいい。私が講師をしている大学の学生に尋ねても、1年生の過半数が「罰ゲーム」をやらされた体験を持ち、その大半が「イヤだった」と感じていた。しかし集団内の人間関係を維持するために「罰ゲーム」付きのゲームに参加することは不可欠なのだ。

 この文化をもたらしたのはもちろん、テレビだ。「罰ゲーム」で笑いをとらない番組を探す方が大変だ。TBS 系「うたばん」では出演したアーティストに電気ショックを与えたり、パイを顔に投げつけたり、やりたい放題。クイズ番組にグルメがからむと、問題ができなかったゲストだけ試食ができない、というのもある。身体や精神にショックを与えて何も感じなくなっていることが怖い。視聴者はすでに、「罰ゲーム」と名前を付ければどんな仕打ちでも許され、人間を大事にしなくていい、ということをしっかり学習して身に付けてしまっている。もう遅いのかもしれない。

 

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