石川遼の「追っかけ」でしかないテレビ局
[THE BIG ISSUE 2007年8月1日号]

 

 この5月、高校1年の石川遼が、ゴルフの男子ツアーで史上最年少優勝を果たした。メディアは「ハニカミ王子」と命名し、彼を追い回すようになり、ファンもイッキに増えた。

 突然「フツーの人」を「有名人」に仕立て上げ、「旬」が過ぎると冷たく見放すのはメディアの定番となっているが、今回も人気急上昇の石川遼に対して、考えられない取材があった。

 最年少優勝後最初の試合である6月5日からの「関東アマチュアゴルフ選手権」で、TBS テレビの複数の報道番組が、石川遼の同伴競技者に小型マイクを装着しての「盗聴」リポートを依頼したり、無断でヘリコプターを飛ばして石川のプレーを中断させたりしたのだ。

 依頼されたゴルファーによれば、「石川くんの声をとるためにピンマイクをつけて、こちらが想定する質問をしてほしい。謝礼も払います」との電話があったそうで、「もちろん断りました。私も競技者です。バカにするにもほどがあります」と怒りをあらわにしている。他の選手にも断られると、キャディーバッグを運ぶカートにマイクをセットしょうとさえした。ヘリコプターも石川が打とうとすると、低空飛行で急接近するマナーの悪さ。大会を主催する関東ゴルフ連盟にもきちんとした謝罪はついになされなかった。

 いったいテレビ局とは何様なのか。取材のためなら何でもしていいし、プレーの邪魔をしても許されると思っているのか。即効的に視聴率をとれればいいという発想しかなく、人間の感情やスポーツ文化の大事さなど取材者の辞書には全く載っていないようだ。実際、この騒ぎで集中が途切れ、石川がスコアを崩す局面もあった。

 そんなメディアがあおった結果は、にわか「ハニカミ王子」ファンのゴルフ場における傍若無人だ。三千人を超えたギャラリーたちは、石川が打ち終わると同伴プレーヤーが打つのを待たずに移動し始め、どこでも携帯電話で写真を撮りまくる。石川は、何度かギャラリーに訴えるが効果なし。テレビ局は、ゴルフを知らずにファンになった人たちのために、わかりやすくルールやマナーを知らせてこそ「報道機関」なのではないのか。

 石川遼も「犠牲者」なのだけれど、将来プロとして、スーパースターとして活躍するためにはこのくらい平気で乗り越えねばならない、という人もいる。しかし今回の取材は、どう考えてもスポーツの進行そのものを妨げているし、視聴者が見たいならどんな手段を使ってでも見せるという思い込みは、視聴者の「のぞき見」という欲望を肥大させるだけだ。エネルギーをかけるなら、うやむやになったたくさんの政治的問題、例えば「ナントカ還元水」の解明にこそ使うのが筋なのではないか。