ネットを闊歩しているヴァーチャルなタレント像
[THE BIG ISSUE 2007年4月15日号]

 

 20年もさかのぼれば、芸能界という「業界」は、世間から見るとかなりのブラックボックスだった。スターやアイドルがどうやって生まれてきて、消えていくのか、そのメカニズムを知ることはほぼ不可能に近かった。

 ところがテレビというメディアは、タブーを破ることで視聴率を稼ぐ方向で急速に変化してきた。劇場や競技場へ行かないと見られない舞台やスポーツを中継してショウにし、バラエティという分野を作って「お笑い」を瞬間芸にし、ついにはニュースまで絵空事に見える演出をしだした。

 芸能界の内幕ももちろん、ターゲットにされた。レポーターは執拗にタレントの私生活に迫り、写真週刊誌と共にテレビも暴露合戦に参加した。タレントに短時間でたくさんの質問を浴びせたり、「ドッキリ」を仕掛けたり、罰ゲームやトリックで本音を言わせたりと、テクニックは発展する一方だ。

 そこにインターネットの出現である。あちこちでちらりちらりと見えだした「内幕」は、かっての「噂」などより何倍も早く、掲示板やブログやミクシーで情報として広がる。「噂」の時代にはゆっくり伝わっていく間に、怪しいネタは淘汰されていった。しかしネットのスピードは、真偽の判定をしているひまを奪った。

 タレントがちょっとテレビで漏らしたひとことは、ネット上を猛烈な勢いでたくさんの通過点を通るたびに尾ひれがつき、そこにまた、いくらタレントだからといってそこまで言われる筋合いはないようなコメントがついていく。

 こうしてテレビ(およびその周辺、とりわけ関係者)からインターネットに漏れた情報はひとり歩きし、タレントのイメージ、そして人間性・人間関係(恋愛を含む!)は勝手に創作され、議論される。

 そしてさまざまなトラブルが発生する。情報を漏らすだけでは飽き足らず、タレントに「なりきって」ネット上で暴れ回る人が出てくる。実際は仲が悪くないタレントAとタレントBのファンが「代理戦争」をしているケースも多い。そんな掲示板を見ると、相手を罵倒し中傷し、読んでいるだけで気分が悪くなる言葉たちが並んでいる。ネットの匿名性が感情をエスカレートさせるのだ。

 この不毛なエネルギーは、テレビが源になっている。タレントならどう「いじって」(「扱う」の意味、この業界用語も嫌いだ)もいい、というポリシーがネット上で増幅しきっている。多くのタレントはそれなりに努力し、また生き残りに必至である。決してどんな仕打ちを受けてもいい存在ではない。

 ミュージシャンならステキな音楽を供給してくれて、「お笑い」なら心地よい気分にさせてくれれば、リスペクトすべき職業であるはずだ。テレビがタレントを消耗品扱いすることをやめないと、人間観まで変わっていきそうで怖い。